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江戸時代で、私が最も興味のある人物。
それが蔦屋重三郎さんです。
吉原生まれの吉原育ち。
喜多川歌麿さんや東洲斎写楽さんを見出したことでも有名な
出版業・本屋を営み、自分の出身地である吉原のガイドブック
「吉原細見」や、狂歌集や戯作を売り出し大ブームを巻き起こした
江戸時代きっての敏腕プロデューサー。
通称、蔦重。
その蔦重さんの小説が明日25日に発売されます。
一足早く読ませて頂きましたので、ご紹介。
『蔦屋』谷津矢車著
あの「TSUTAYA」も、この蔦屋重三郎さんからとった名前です。
この偉大なメディアプロデューサーである重三郎さんにあやかり
「現代の蔦屋になる」という意味が込められているんだそうです。
そんな重三郎さんは、私の憧れでもあります。
4年前に見に行った、蔦屋重三郎展ですっかりその凄さに魅入られたのです。
http://www.suntory.co.jp/news/2010/10814.html
しかしあまりにも彼の功績が凄すぎて、私には蔦重なる人物の
人間としての姿を思い浮かべることが出来ませんでした。
山東京伝さんの戯作に描かれた「まじめなる口上」の蔦重さんの
絵を見ても、この人の実態が掴めなかったのです。
だからこそ、この本は私にとって興味深いものだったのです。
著者は、以前こちらでもご紹介させて頂きました
『洛中洛外画狂伝』を書かれました若き歴史作家・谷津矢車先生。
若干27歳。
以前の作品も面白かったので、期待大。
蔦重さんが華やかな江戸のメディアを席巻する中、世の政の中心は
老中・田沼意次さんから松平定信さんに移ります。
質実剛健・質素倹約。
徳川吉宗さんの孫である定信さんのこの精神は、自由闊達に
数寄を楽しんでいた本の世界にも迫ります。
書籍の取締によって、蔦重さんは色々なものを失っていきます。
私は蔦重さんを通して、いや、この物語のキーパーソンである
恋川春町さんを通して、谷津先生自身が今の世の中に言いたいことを
言っているような錯覚に陥りました。
「洛中洛外〜」にも通じる、自分の作り出すもので何かを破ろうとしている
作り手の姿を感じるのです。
それは、どうぞ実際に読んでみて感じて下さいませ。
この政治的な締め付けにより、江戸っ子はまた新たな
芸術を作り出していきます。
そのひとつが、蔦重さんのプロデュースする“とあるもの”。
着物の江戸小紋や裏地文化も、この流れで出来たものですね。
窮屈な“法”に負けずに自分たちの数寄を見せつけた江戸っ子が
私はとても好きなのです。
私たちと同じ庶民の、底力を感じさせてくれるのです。
その「意地」が、ここでも余すことなく描かれています。
「つまんねぇな、面白いことしようじゃないかい」って。
しかし、今回この物語では『敵』が姿を現さないところが
ゾッとするというか、妙に共感できるというか。。。
以前の作品でも、私にとって実態のつかめなかった狩野永徳さんという
絵師を人間として感じさせてくれた谷津先生の筆は、今回も
私の憧れの江戸のプロデューサーを人間として私に出会わせてくれました。
後半、蔦重さんが語る、蔦重さんにとって大切なもの。
それは私が歴史プロデューサーとして
一番大切にしているものでもあったのです。
少し、彼に近づけた気がしました。
また、この装丁がとっても素敵なのです!
エンボス加工で、絵には描かれていない花びらが舞っているのが
手に取り触るとわかるようになっています。
粋ですね、学研さん^^